kuroの読書日記

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アイヌ神謡集(知里幸恵)

 

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

  • 発売日: 1978/08/16
  • メディア: 文庫
 

 

 アイヌが口伝えに繋いできた神謡、それを13編選び、左ページにはローマ字で音を起こし、右ページには日本語訳を著したのが本書である。

 この神謡はアイヌユカルと呼ばれ、狭義では熊、梟、鮭、沼貝などの動物神、トリカブトアララギなどの植物神、舟や錨などの物神、火の神や風の神などの自然神が自らの体験を語った形で進んでいく物語のことを指す。また、人間の始祖とされる文化神オイナカムイ(アイヌラックルやサマイクル、オキクルミなど地域によって様々に呼ばれている)が自ら歌った謡はオイナとアイヌ民譚集(知里真志保)で区分されるが、広義のアイヌユカルはこのオイナも含むとされている。

 

 さて、本書はそのような広義のアイヌユカルが記されている。アイヌでは一定の法式に則って神を崇拝し、丁寧に祭ったので神々はアイヌに海幸、山幸を分け与えたのである。カムイは本来人と同じ姿をしているが、人の前では動物のすがたをし、人にその肉を与える、というのがアイヌの人たちの考え方である。美しい自然に抱擁され天真爛漫な稚児のように生活してきたアイヌの人たちと共に存在したカムイたちのカムイユカラをぜひ一度聞いてみてほしい。

 また、本書の序文に知里幸恵の無念が記されている。現在、近文も旭川市の一部となり市民は歴史としてアイヌが生活していたことを知っていてもその文化はほぼ知っていない。時代は違えど北海道で育った身、ひとつこの本のことだけでも知っててもよいのではないだろうか。